私はどの音と共に過ごすかーフィールドレコーディング講座へ

遅い寒さがやってきた11月、山梨・北杜のlistudeで行われたフィールドレコーディング講座に参加した。松林の森のなかに今年10月にオープンしたlistude は多面体スピーカー工房、試聴室、顔の見える大きさの音楽ホールと音に必要なすべてが揃った場だ。神奈川・大磯のSALOで定期的に行われているこの講座は今回、「音を作ることは、聞くことから始まる」というlistude主宰の鶴林万平さんの気付きを経て、場所を変えて行うことになった。

私がフィールドレコーディングに出会ったのは、2022年に行われたこの講座を率いる柳沢英輔さんの著書『フィールドレコーディング入門』の出版記念トークだった。普段、無意識になかったことにしている様々な音に耳を傾けることの醍醐味に気付かされ、音響技師の井口寛さん主宰の大磯・SALOで行われた講義にも参加。地下鉄から吹き上げる空気の音、カップがカチンとなる音、遠い北国の雨風の音。録音した音を改めて聞くと、何を主体にしてこの世界を感じるか、考えてもみなかったことに気づくだけではなく、音の捉え方も変わっていく。柳沢さんによると、録音に必要なのは機材の知識もさることながら、視点を持つことだという。確かにレコーダーを通すと周りは実に多様な種類の音で溢れているが、私たちは自分の頭の好みに合わせて知らずのうちに聞くべき音を編集している。そこに意識を持っていくことができたら、きっとまた違う世界が広がるはずだ。

とはいえ、一から十まで音響の素人の私が録音などできるのだろうか。うっすら不安も抱えながら、冬の始まりを感じる寒空の山梨へ。周到に準備された講座は、講義から始まり、機材の説明、録音に関しては参加者のレベルに応じて井口さんに質問するという構成になっていた。初めて持つ録音機材は片手に収まるほど小さく軽やかだ。それにイヤホンを挿して録音されている音を確認すると、視覚で確認するのとは全く別の音の粒が耳に入ってくる。

当日はミュージシャンの青柳拓次さんのギターソロライブも同時開催され、なんと参加者はこのライブの音も含めて録音をすることができるという構成だった。「これほど多くの録音機材に囲まれたことありません・・・」と前代未聞の環境に驚きつつも期待を寄せる青柳さん。ふくよかなギターの音は森の暗闇を震わせた。

イヤホンを通じて録音を聞いていると、普段視覚に支配された物事の主役と脇役が入れ替わるかのようだった。私はこの世界に無数に存在するどの音にマイクを渡したいのだろうか。そんなことに思いを巡らせる。

二日間にわたる講座の最後は参加者が録音した音を全員で聞いてみるという時間だった。プロから初心者まで、まさに音の句会のようにそれぞれの思いと音の仕上がりを味わう。目を瞑ったり、宙を眺めたり、音を吟味する講師陣や青柳さんの佇まいが印象深い。

ところで私が採取した自慢の音はひとつ、寒い外から入ってきて暖かい室内の席につき、お茶をすする男性のため息だった。「はあ」という声から響く、寒さと蒸気と緩んだ心。録音機材を通過すると、ここまで音の粒子は表現豊かだったのかと、普段、目ばかりに頼っている自分に気がついて、耳に申し訳なく思った。と同時に、録音にしかできない音を取り巻く場の捉え方があるかもしれないと、新しい扉が開いたように感じた。